2016年01月23日

リニア計画の環境破壊・風景を失うという事は歴史を失う事

リニア計画の環境破壊 「風景を失うという事は歴史を失う事」(色川大吉の言葉)

ソースは Facebook STOPリニアプロジェクトGreensJapan で2016年1月22日に掲載された記事です。この Facebook はリニア中央新幹線事業に関係して私の巡回先の一つですが、緑の党 GreensJapan からこのFacebook へのリンクは無く、両者の関係が判然としませんので、とりあえず自分の覚えのためにここに転載しておきます。
この記事中にある「講演(品川区)」については、東京都区内でのリニア集会について議院会館は別にして、2015年11月14日に大田区民センターで開催された ストップ・リニア訴訟のスタート集会 しか確認していませんので、後で確認します。
この記事は、日本自然保護協会(NACS-J)の辻村千尋氏、地質学者の松島信幸氏、地質学者・坂巻幸雄氏の著書や講演からの引用を含めて、内容はリニア中央新幹線事業の問題点を的確に指摘していると思えます。
記事の末尾に投稿者さんのコメントが記載されています。
記事中のリンク設定や中見出しの強調設定は編者です。ネティズンとしてはWWWを活用して、誰でも、いつでも、何処からでも、求める情報が読み出せるようにしておきたい・・・

JR東海の環境アセスは古い
 人口音の全くない大鹿村の0デシベルの環境にとって、5000台のトラックの走行はどれほどの暴力だろうか。そこにはイヌワシなどの稀少な動植物たちが暮らしています。

「基準値50デシベルは野性生物の生息地では大きな環境破壊。この値以下なら…というしきい値はないと僕は思います」と辻村千尋氏は語ります。リニアの環境破壊の最たるものとして、この長野県大鹿村のトンネル工事に伴う騒音問題から始めるのは、人口音のしない「静寂の自然環境という価値」への気づきが足りないとの想いからです。そこに静かに息づく無数の生き物たちと共に、その連環の中で、人間社会も支えられて存在している事を踏まえてリニア計画の環境破壊について考えていきたいと思います。

 日本自然保護協会の辻村さんは、この講演(品川区)でJR東海の環境アセスの問題点を指摘しました。
 ① 改正されたアセス法の盲点がつかれている。
 ② ゼロオプションの検討がない。
 ③ 計画段階での検討がアワスメント(計画ありきの迎合)になっている。
 これでは戦略的アセスメントとは言えません。本来はJR東海が3つのルートの環境影響の調査・比較検討の上で絞り込みすべきところを、国交省内(小委員会)で行われた事も問題です。また最大限意見が反映されるのが基本手続きですが、JR東海の回答はすべての過程で「先送り」を続けていると言えます。学生のレポートなら落第点です。
JR東海は事業者として、国交省は認可者として、本開発行為が日本の「生物多様性保全を進める」という国策に対し、不可逆的な影響を与える事実を直視し、真摯に対応すべきです。評価書の手順は逆戻りはできないので、きちんとしたものでなければ認可すべきではありません。(講演録より)

 JR東海の環境アセスメント(環境影響評価書)は古いということ、影響の過小評価により、その対策にも効果は期待できず、数年かけてのやり直しが求められます。

南海トラフ巨大地震の影響とルート地質の脆弱性
 静岡、山梨、長野にかかる南アルプスとそれを貫くリニア計画ルートは、南海トラフのマグニチュード9と言われる超巨大地震の影響を受けざるを得ないと松島信幸氏はその著書「危ないリニア新幹線」の中で警告しています。「早ければ20年後、遅くとも半世紀後には起こる。現在の研究で推定される東海地震の震源断層は御前崎沖の駿河トラフから富士川へ向かって北上し、赤石山地南部の赤石岳・荒川岳付近の地下30キロまで破壊がおよぶであろうと考えられている。破壊の先端は甲府盆地南部までおよぶであろう。事実、過去に発生した東海地震から求められた甲府盆地南部の想定震度は7である。リニアルート上では富士川町の一帯である。」
 その上にこの地域の地質が脆弱である事が詳細に描かれています。
「糸魚川ー静岡構造線と言えば重要地質境界断層を示す。赤石山地を構成する地質体と、伊豆・小笠原島弧の櫛形山とが衝突する構造線である。構造線とは一本の断層線ではない。海底玄武岩質の堅い岩石と海底起源の軟弱な泥質岩とが複雑に混じり合い押し合っている擾乱(じょうらん)帯である。」

山岳トンネルの特有の問題について。
「山岳トンネルの難しさは山体圧力にある。トンネル屋は「地山圧力」と呼んでいる。トンネルの標高と山頂部との標高差によって生じる圧力である。山は「水瓶である」。その山に穴を穿つと、地山圧力によって被圧されている水が噴出してくる。水が十分抜け得る地山ならよいが、南アルプスの地山は無数に亀裂を持っているため十分な水抜きはできない。水の噴出と、それに伴う落盤は常時発生するだろう。トンネルでの大規模な落盤が起きれば、完全に山が抜け落ちる。新第三紀層は未固結な地層だから要注意である。」

 「日本の背骨にあたる南アルプスから中央アルプスにはプレートテクトニクスによる断層運動が集中して破砕帯や擾乱帯が幾筋も存在する。そこは、広範に岩石が細かく砕かれ、粘度混じりになっている。こうした場所は、トンネル掘削時から完成後も、ゆっくりとひずみが増大していく。トンネルは鉄とコンクリートで固めた構造物に違いないが、山の地殻変動は永く続く。トンネルは生き物である。」

 この章では続いて崩壊が最も激しい主稜線である標高2600メートル附近をリニアが走行する事、大鹿村は変動地域でありトンネルを掘っても長く維持できない(水と絶えず反応して膨張する性質を持つ)蛇紋岩体で、この岩体はしかも、水や酸素と化学反応を起こして水や土壌を汚染する危険な重金属を含むとしています。そして南アルプストンネルは泥質メランジュ(各種の岩石が雑然と撹拌されて集合している混在岩)に翻弄されるだろうと指摘しています。

 地震は天災ではありますが、そこにリニアが走る事による環境破壊が、地震時に複合した時どんな結果をもたらすのか、計り知れないものがあります。

都市部(東京、神奈川)の大深度地下では
「地下トンネルの環境破壊」について、地質学者の坂巻幸雄氏は、町田市で行われた講演会で、以下の様な問題点を挙げています。
・地質は、町田では表層の赤土(関東ローム)の下は主に砂(稲城砂層)で、地下水に影響が考えられるほか、地中に 潜んでいるヒ素などが流出する恐れや、ガスなどで作業員に犠牲が出る恐れもある。
・地下水位についてJR側は電算機予測で影響軽微としているが、実測データによる検証が乏しく信用できるとは言えない。
・地下深い為、真光寺川付近ではトンネルは海面下レベルを通り、片平の立坑は80m にもなる。乗降りも、深すぎる為不便で公益性も失われる。さらに工事による残土の量・土質・処理サイトも示されず、JR側は「必要があれば 補足調査する」と計画変更はさせない姿勢だ。これでは「上越新幹線中山トンネル」工事で起きた、大出水事故も起きかねない。

 参加者の質疑では沿線の学校や老人施設への影響を心配する声、残土の運搬による大気汚染、騒音、振動等の不安から起きている反対運動など、詳細な計画の説明を求める意見が続いています。

自然と歴史文化の価値を未来へ
 ここで再び松本氏の章の結びを紹介します。
「これまでの(JR東海の)説明会では、トンネル工事に伴う問題の説明は不十分だった。消化不良のまま強引に会を閉じてきたJR東海の秘密主義と傲慢さに終始する会社の論理が安全と信頼に先行するならば、原発事故と同様な構造災害が潜むであろう」。

 リニア中央新幹線計画に反対してきた1都6県の沿線市民の、これが共通の憤りではないでしょうか。環境影響評価のやり直し=事業の凍結を求めます。しかし本来は、生物多様性保全の観点に立ち、またスピードも、都会に一極集中の価値観からも、既に降りている21世紀のオルタナティブな価値とライフスタイルからすれば、リニアは旧世代の願望かもしれないが、あまりに非合理で不要な計画に過ぎず、未来世代へ負荷を残さざるを得ないという世代間倫理からしても、白紙撤回がベストです。安全・安心な日本列島、そのここかしこの山村で、ここまで引き継いできた特有の自然環境と人間が編み上げてきた歴史文化をこそ、子どもたちに手渡したいと強く願って終わります。

(文責・星川まり)
※2年くらい前に、小冊子を編纂しようという計画があって、自分の担当部分の原稿を書いたまましまっていました。講演記録や著書からの抜粋で構成しているので、特に目新しいものではないかもしれません。小冊子はコンパクトな形で別の編集グループであっという間に形になり、すでにご紹介しています。欲しい方は連絡ください。「リニア市民ネット」版「リニア中央新幹線は疑問がいっぱい」11のポイントに絞った解説書です。
【編注・この小冊子については、「東濃リニア通信」が 「リニア中央新幹線は疑問がいっぱい」 (リニア・市民ネット) で掲載しています】

posted by ict工夫 at 20:55| 集会・講演会