2019年02月24日

静岡県とJR東海が直面する「大井川水源問題」(ポストセブン記事紹介)

リニア新幹線 静岡県とJR東海が直面する「大井川水源問題」(2019.02.24 07:00 NEWSポストセブン 著者・小川裕夫氏(おがわ ひろお)フリーランスライター)
小川裕夫氏は静岡県出身、Twitter @ogawahiro があります。 小川裕夫|note はご自身の記事リスト。
今回の記事冒頭を引用しておきます。

江戸時代には東海道でも屈指の難所と呼ばれ、箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬと言われた大井川。その大井川が原因で、中央リニア新幹線プロジェクトが困難に直面している。トンネル掘削によって大量に噴出する大井川水源の水を、どのように処理するのかという問題だ。ライターの小川裕夫氏が、大井川を挟んで静岡県とJR東海が直面している問題についてレポートする。
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この記事では、山梨県の長崎幸太郎知事が甲府リニア駅の周辺整備計画を白紙撤回することを示唆していること、長野県阿部守一知事が残土処理で環境に配慮することをJR東海に要請していることに言及していますが、これらについても小川さんの記事が出ることを期待したいです。

 JR東海が2027年開業を目標に工事を進める中央リニア新幹線。約9兆円も投じる一大プロジェクトは、JR東海にとって社運を賭けたと形容しても過言ではない。その一大プロジェクトに暗雲が立ち込めはじめた。
 先の山梨県知事選で当選した長崎幸太郎新知事が、甲府に建設が予定されているリニア駅の周辺整備計画を白紙撤回することを示唆しているからだ。また、長野県でも阿部守一知事がリニア建設によって排出される残土処理で、環境に配慮することを要請。
 早期の開業を目指していたJR東海にとって、クリアしなければならない課題が増え、そのために開業年がさらに遅れる可能性も否定できない。
 とはいえ、山梨県や長野県はリニア開業で恩恵を受ける。だから、リニアの早期建設・開業を望む声も根強い。
 問題は、リニアが通るだけで駅が設置されない静岡県だ。
 東京と名古屋を約40分で結ぶ中央リニアは、路線の大半が山の中を走る。そのため、中央アルプス・南アルプスにトンネルを貫くための大工事をしなければならない。単純に山を掘削するだけでも大変な作業だが、南アルプスの地下には大井川の水脈がある。この水を巡って、静岡県とJR東海が対立しているのだ。
 トンネル工事では、事前から大量の水が湧き出ることが予測されていた。その湧き水の扱いを巡って、静岡県側は「湧き水の全量すべて戻す」ことを主張。一方、JR東海は「減量分を戻す」と主張した。
 静岡県とJR東海の意見対立は、平行線をたどった。そのため、静岡県の川勝平太知事はリニアのトンネル掘削工事を許可しなかった。
「だからと言って、静岡県がリニア建設を反対しているというわけではありません。行政は暮らす人たちを守るのが務めです。リニアの掘削工事をするなら、きちんと地元自治体の言い分を聞き、地元住民の生活が脅かされないようにしてほしいとお願いをしているのです」と説明するのは、静岡県くらし・環境部環境局水利用課の担当者だ。
 リニアの掘削工事で影響が出る大井川は静岡県の中部を流れる河川で、地元自治体が上下水道で使用する。そのほか、農家や工場などが農業用水・工業用水としても利用している。それだけに、大井川の水の量が減ってしまえば、経済活動にも影響が出る。
 明治期から高度経済成長期にかけて、日本の電気の大半は水力発電で生み出されていた。なかでも、大井川流域では盛んに水力発電が取り組まれ、それが日本経済の発展に寄与した。大井川の水は、戦後復興を支え、高度経済成長を実現し、日本を世界の経済大国に押し上げた立役者でもある。
 水力発電が主流ではなくなった今でも、大井川の水に恩恵を受ける利水者は多い。流域の8市2町と農業用水・工業用水として利用する団体が、今年(2018年)8月に大井川利水関係協議会を発足。同協議会は、リニアの工事対策をきちんと講じるようJR東海に要請した。(編注・2018.08.02 第1回大井川利水関係協議会)
「水は生命の源ですから、『全量を戻す』という静岡県や協議会が出している条件は絶対に守ってもらわなければなりません」(同)
 同協議会には政令指定都市の静岡市は入っていないが、焼津市・島田市・藤枝市・掛川市・袋井市といった地方自治体のほか、電力会社や水道企業団などが名を連ねる。さすがのJR東海もこうした主張を受け入れざるを得ず、昨年(2018年)10月にJR東海が「全量を戻す」という静岡県側の言い分を飲むことで問題は決着に向かいつつある。
「まだ、ようやく話し合いのテーブルに着いたばかりです。『どうやって全量を戻すのか?』という具体的な方法を決める話し合いはこれからです。県民の暮らしを守るためにも、慎重に議論していかなければなりません」(同)
 国土開発にまつわる話は、どうしても推進側に有利な世論が形成されやすい。例えば、東京湾の埋め立てでは、千葉県の地元漁師たちが猛反対した。千葉県は反対住民たちを説得するために、多額の補償金を出すと約束。しかし、生活が立ち行かなくなる漁師たちは補償金をもらうからといって翻意しなかった。
 当時は日本列島改造が世論を熱狂させており、日本全国が開発一直線に突っ走っていた。そのため、漁師たちは「ワガママを言っている」「ゴネているだけ」といった厳しい世論を浴びた。
 しかし、水問題は農業・工業の生産活動にも結びつく。「大井川の水なんて、しょせんは静岡県民だけしか恩恵がない。だから自分には関係ない」と一笑に付すわけにはいかない。
 静岡県内の農業・工業生産が落ち込めば、それは回りまわって東京や名古屋の経済活動を減速させることにもつながる。リニアを発端とする大井川の水問題を、静岡県だけの話にするのは問題の矮小化にほかならない。
 静岡県とJR東海のような地元自治体と鉄道会社との齟齬は、全国各地で見られる。決して他人事ではない。
posted by ictkofu at 12:00| 静岡県